友意白雑記帳

だいたい自分用の覚え書き

応募書類「文系学部における自然科学教育に関して」

募集要項にある情報から、実際の授業は物理学、特に実験を含む内容であることを想定している。また、担当する学生の平均的な性質として、次を想定している。(1)将来のキャリアとしては行政や法曹、実業界への進出が多数。(2)物理学および自然科学一般の前提知識としては、中学校卒業~高等学校卒業くらいの水準。従って、物理学の専門知識の伝授が、当該学生のキャリアパスに有利をもたらすことは考えられない。それでもあえて物理学、特に実験作業を含む授業を行う目的として、私は以下の点を重視している。

 観測データの重要性。純粋数学を別にすると、物理学を含む自然科学の本来の目的は、一見すれば雑多かつ無秩序な自然現象を、少しでも明瞭な形で解明することである。当然ながら、基盤となるのは自然界を観察して得られた情報、即ち観測データである。物理学の理論やモデルの優劣も、最終的には実験結果との照合から判断される。この考え方は、文系の学術やビジネス活動においても有用なものであると期待している。経験的・客観的事実から目を背けずに、これを記録し、受容し、利用できる態度とテクニックを、学生にはまず身に付けてもらいたい。そのための訓練として、物理学の実験課題は適当であると考える。授業時間内では可能な限りの実験作業、データの収集と整理を行わせ、「虚心坦懐になってデータを採る」ことに習熟してもらいたい。成績評価ではレポートに加え、実験ノートの内容も重視したい。

汎用的な数学スキル。物理学にとって、数学はもっとも便利な記述言語として使用されてきた。しかるに現代では、経済学や言語学においても、数学的ツールは一般的になっている。初等的な解析学、数値データのグラフ化、統計処理などのスキルを身に付けておくことは、学生のキャリアパスの可能性を広げる上で有効であると期待している。授業においても、現実の問題=実験結果に即した数学的スキルの使い方を通じて、その便利さにも気付けるような内容にしたい。ただし、実際に担当する学生の数学的能力については、応募時点では情報を持っていないため、採用後に調査したい。尚、私が重視する汎用的スキルの一つに、数理モデル化がある。優れた数理モデルとは、ノイズとなる情報、枝葉末節を切り落としつつ、注目している問題の本質だけは損なうことなく取り入れている。この数理モデル化能力は、物理学だけではなく、むしろ実社会で直面する様々な問題を解決するための助けにもなる。

情報通信技術(ICT)の重視。現代ではあらゆる学術・経済活動において、計算機やインターネットの利用が前提となっている(いわゆるICT化)。そして、これらの情報関連技術に習熟しているか否かで、アクセスできる情報量や経済的機会に大きな格差が生じる。この重要性を十分に認識したうえで、将来の教育活動においては、(1)ICT環境の利用を前提とし、また、(2)学生には専門技能とICT環境の双方に同時に習熟できるような内容を目指している。担当する授業においては、可能な範囲で、オフィス業務、プレゼンテーション準備、初歩的なプログラミング等も盛り込んでいきたい。

 

その他、授業や学生の指導に関するアイデア、ポリシーとして、以下の点を強調しておきたい。

身近な実験教材。実験に関しては、可能な限り、準備や設備が少なくて済むものを中心に授業を行いたい。理想的には、一般的な学生が、自宅でも容易に再現可能な題材に限定したい。座学と異なり、実験系の授業は出席がほぼ必須である。私の経験上、この点が、学生が実験系の授業で躓く一因であり、その可能性をなるべく低く抑えるためのポリシーである。

専門と汎用スキル教育の相乗効果。特にフィンランドのユヴァスキュラ大学に在籍中、学生やスタッフに対して、専門教育と並行した汎用スキル(外国語、IT技術、キャリア形成など)に関する講習プログラムが充実しており、感銘を受けた。現地の学生が自身のキャリア形成に対して大局的かつ開放的な態度を持っていた点も印象的であった。指導する学生には、視野狭窄に陥らないよう、多角的な観点からのアドバイスと、教育機会の提供を行っていきたい。