友意白雑記帳

だいたい自分用の覚え書き

北海道大学への応募書類の一部(抱負)

北海道大学のポジションに応募した。そのときに同学の基本理念と絡めて、自分の教育スタンスをアピールするために書いた文章なのだが、自分でも結構気に入ったので、一部を改変・削除した上で掲載。

 フロンティア精神。地理的なフロンティアは宇宙と深海を除いて消滅したが、人類社会は未だに多くの問題を抱えている。これらの問題解決を後世に委ねることなく、この時代に生まれた人間として、当事者意識を持って取り組むことも、フロンティア精神の発露の一種といえる。しかし、現代の我々が直面している課題群は、非常に複雑で入り組んでいる。学生が「自分が行くべきフロンティア」を見極めることは容易ではない。私には物理学というフロンティアを選び、そこで悪戦苦闘して得た教訓と経験があるが、今度はこれを教育にも活用し、ひいては、学生が自身にとってのフロンティアを正しく選び、開拓していくための助けになりたい。そのために、学部教養から大学院の専門までレベルを問わず、教育業務に貢献したい。

国際性の涵養。私自身にも海外での勤務経験があり、国際性を重視する方針には強く同意する。国境や国籍に縛られずに活躍するための基礎能力として、現代の国際語である英語教育を重視する方針は、先述の通りである。ただ一点付け加えるならば、単に英語が話せるだけでは、異なるバックグラウンドを持つ人間との相互理解など望むべくもない点も、重々承知している。そこには「自分でも何かの役に立てる」という自意識と、それを国際的場面においても臆することなく、他者に表明できる勇気が必要である。そのために有効な教育課程こそ、卒業研究や学位論文研究であろう。学生に最先端課題の一つを担わせ、指導側はそれに対する学生自身の努力を辛抱強く支援することである。この経験で培われた「北海道大学出身の高度専門人材」としての自覚は、国籍や人種の異なる人々との交流においても、学生自身が自意識を表明するための心強いバックグラウンドになると信じる。

 全人教育。学術や経済、芸術などの分野を問わず、その第一線で活躍する人材には、専門技能と教養、倫理観、自主独立性、大局観などのバランスが高レベルで実現していることが要求される。特に現代では、多種多様な個性や価値観が存在する中で、このようなバランス感覚を体得した人材の重要性が一層高まっている。この点を意識しつつ、着任後の教育業務においては、教養課程と専門教育の相互作用を意識し、加えて、学生が学業だけの視野狭窄に陥らないようなサポートも心掛けたい。学生との意思疎通にも可能な限りの注意と便宜を図りたい。

実学の重視。学問の社会還元には様々な形態が考えられる。その一例が、汎用技能を習得した人材を社会に送り出すことである。私自身が研究を通じて体得した汎用技能の一つに、数理モデル化がある。優れた数理モデルとは、ノイズとなる情報、枝葉末節を切り落としつつ、注目している問題の本質だけは損なうことなく取り入れている。この数理モデル化能力は、理論物理学だけではなく、むしろ実社会で直面する様々な問題を解決するための助けにもなる。学部および大学院レベルの教育活動において、私は特に数理モデル化の重要性とノウハウ、それを評価・改善する数理科学的なアプローチ、そして広範な応用可能性も併せて、学生に伝授していきたい。また、自身の研究成果をしっかりと社会に発信し、物理学が人類社会に貢献できることを伝えていきたい。