友意白雑記帳

だいたい自分用の覚え書き

クォーク質量の歴史

ご注意:「クォークて何?」な方は、ひとまず下記のWikipediaを先にお読みいただくことをお勧めします。簡単に言うと、電子などと並んで、我々の身の回りに存在する「物体」の最小構成部品とされている素粒子の一種です。

クォーク - Wikipedia

 

イントロ

何気な~くクォークのページを見ていて、ふと思ったこと。これまで、数多の努力が払われてきたのにも関わらず、クォークを単独で測定できたという報告はありません。この理由は、量子色力学の「色荷」や「閉じ込め」といったメカニズムで(一応)説明されています。にも拘わらず、たとえば上記のWikipediaを見ると、全6種類のクォークのデータがしれっと掲載されています。

 

ここで素朴な疑問「なんで知ってんだよ質量?」

 

いや、だって、単独での観測が不可能である以上、クォーク一個一個の質量も、本来は測定不可能な筈です。この点が気になったんで、今回はまず、クォークという素粒子が物理学の世界でどう扱われてきたのかを調べました。

調査開始

そんなわけで、大学の図書館のパソコンで、過去の"Particle Data Group"の年次会報をあさって、情報を整理してみました。この"Particle Data Group"というのは、世界の素粒子物理学者が共同で編纂しているデータベースです。今回は英語版Wikipediaのページに、年次会報の論文ソースがまとめられていたので、大変助かりました。

Particle Data Group - Wikipedia

大前提として、クォーク模型が提唱されたのは1963年、提唱者はMurray Gell-Mann(米国)氏です。従って、クォークという存在が認知されるのは、これ以後になります。

1980年代以前

確認できた年次会報の内容は以下の通りです。

  • 1965年…クォークという単語すら無し。載っているのは中間子等のみ。
  • 1970年…単体のデータは無し。理論予測としてのクォーク模型への言及はあり。
  • 1976年…クォーク単体のデータは無し。「数々の実験が行われたが、クォーク単体の観測に成功したという報告は未だ無い。」的な記述があった。このあたりから、クォーク模型に対する信頼度が上がってきた様子。
  • 1980~1984年…引き続き、クォーク単体のデータは無し。

1990年代

1992年の年次会報→確認できた範囲では、ここで初めて、全6種類のクォークがリストに掲載。たとえば、アップクォークの質量はMeV/c^2の単位で2~8、ダウンクォークの質量はMeV/c^2の単位で5~15と、かなりアバウト。それでも、遂にクォークが素粒子の一員として認められた様子。

2000年代

完全にクォーク模型が市民権を得ている印象。2006年の会報では、たとえばアップクォークの質量はMeV/c^2の単位で1.5~3.0、ダウンクォークの質量はMeV/c^2の単位で3~7と、大分誤差が小さくなってきた(算定方法は勉強不足につき不明…)。

そして現代

一気に跳んで、最新版である2020年次会報から抜粋。たとえばアップクォークの質量はMeV/c^2の単位で1.90~2.65、ダウンクォークの質量はMeV/c^2の単位で4.50~5.16とのことで、かなり高精度になっている。尚、この会報は日本の学術雑誌である"Progress of Theoretical and Experimental Physics"から出版されており、(おそらく)オンライン版は一般公開されています。つまり、誰でも読めます。添付図は最新版のクォーク質量のまとめ。

 

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クォークの質量まとめ。データは"Particle Data Group"会報(2020年版)から。

クォーク質量の算定方法

さて、肝心の「なんで単独分離不可なのに個々の質量決められるんじゃい?!」問題ですが、、、、すみません、この内容は、マジで専門的すぎて、上手くまとめられません。かいつまんで書くと、

(1)陽子やパイ中間子など、「クォークの多体系」である粒子の質量なら、実験で測定できている。

(2)量子色力学では、「生の」クォークの質量はインプット未知数として取り扱われている。

(3)そこで、量子色力学にもとづいた数値計算を繰り返し、陽子やパイ中間子などの質量を再現できるような、生クォーク質量を、試行錯誤して同定する。

こんな流れで算定されている筈です。間違いや誤解を招く内容もあるかと思われますので、ご興味の沸いた方は、ご自身でも調べてみてください。