友意白雑記帳

だいたい自分用の覚え書き

構想中のプロジェクト群(1)

最終更新:2022.06.28
現在やろうとしている研究の構想をメモ。こちらは割とすぐ取り掛かれる系のプロジェクト群。

M1とGT遷移のアイソスピン対称性の破れと残留相互作用

(1年目前半、修士課程向け)M1とGT遷移のアイソスピン対称性の破れと残留相互作用。この両者はアイソスピン対称なシグマ・タウ形式の演算子で記述される。しかし最新論文A16では、相対論的な残留相互作用により、両者の対称性は破れていることが示唆された。また、オープン核では陽子・中性子の相互作用により、一度破れた対称性が部分的に回復している可能性も示唆された。
その一方、REDFラグランジアンの改善の必要性も明らかとなった。本研究では新たな擬スカラー・擬ベクトル型の残留相互作用を追加し、実験データの再現能力向上を図る。これらの残留相互作用は、基底状態の観測量への影響は小さいが、集団励起や天体核反応等においては不可欠な要素であり、その精密化は重要である。
最終更新:2022.06.28

有限核中の陽子・中性子のスピン相関

(1年目後半、修士課程向け)有限核中の陽子・中性子のスピン相関。ハドロンプローブを用いたM1遷移の測定(H. Matsubara et. al., Phys. Rev. Lett. 115, 102501)から、核内部では陽子と中性子のスピン相関が有限値をとっている可能性が提示されている。しかし、非相対論的な理論計算からこの相関値を再現することは容易ではない。本件ではREDF-QRPAを適用しての説明を図る。同時に、有限核や核物質の磁気的性質についても議論する。

変形を含むM1やGT遷移の計算

(2年目後前半、博士課程向け)変形を含むM1やGT遷移の計算。中性子過剰な原子核では変形を考慮する必要がある。しかし変形を取り入れた場合、QRPAの計算コストは大幅に増加する。効率的な計算のため、先行研究(H. Liang, T. Nakatsukasa, Z. Niu, and J. Meng, Phys. Rev. C 87, 054310, 2013)で提唱されたFAM-QRPAを採用する予定である(業績A5)。

一粒子QRPAを超えた成分

(2年目後半、博士課程向け)GT遷移では一粒子QRPAを超えた成分の影響が無視できない可能性が示唆されている。本件ではこの第二成分までを取り入れたREDF計算スキームの開発と、M1/GT遷移への応用を試みる。また天体核反応が起きる環境下では、ゼロ温度近似が必ずしも妥当ではないため、従来の計算スキームに有限温度効果を追加することで解決を図る。

中性子星と原子核の橋渡し

(3年目)中性子星と原子核の橋渡し。中性子星はいわば巨大な核子多体系であり、かつその強い重力により、相対論的効果が無視できない(J. D. Walecka, Ann. of Phys. 83, 491, 1974)。先行研究の一例として、応募者らは、中性子星物性と電磁気型の励起モードとの相関を議論した(業績リストA13)。本件ではより包括的な視点に立ちつつ、M1/GT遷移や残留相互作用と、中性子星物性の関係を明らかにしていく。特に、中性子星の強い磁場の原因をREDFラグランジアンから説明できるかが、一つの試金石となる。

追記:相対論的なEDF理論を基本フレームワークとして採用する動機

現在までに実用化されている原子核の理論計算手法には、他にも少数厳密計算、大規模殻模型、第一原理計算などが存在する。これらの手法と比較すると、エネルギー密度汎函数(EDF)理論にもとづいた平均場計算は、現在においても、核図表上において最大の適用範囲を誇っている。即ち、多くの核種を統一的に取り扱うことが出来る。また、他の原子核EDFと比較した場合、相対論的なEDF計算には以下の特長がある。●ラグランジアン・スピノール形式から出発するため、スピンの自由度が自然に記述できる。●核子のDirac方程式から、スピン軌道相互作用を自然に記述することができる。●高エネルギー領域への応用を考える際にも、相対論的効果や因果律を保持できる利点がある。●考慮する中間子の結合定数と量子数が、ラグランジアンの相互作用と良く対応しており、新たな実験データに合わせて理論を改訂していく際にも、見通しが立てやすい。
しかし一方で、REDF理論の数学的基礎付けやパラメーターの精度、数値計算法などの問題も多く残されている。本研究がこれらの問題解決に貢献することを強く望んでいる。