何だよ、そのarXivとやらは?
アーカイヴ(英:arXiv)とは、主に数学や物理学の研究者が、出版前(プレプリント)の論文の草稿を保存し、かつ一般に公開しておくためのデータベースです。
今も昔も、論文が審査を通過して陽の目を見るためには数か月~数年単位の時間がかかります。アーカイヴ以前には、その間、自分の研究は査読者以外には周知されることが出来ませんでした。しかし現在では、論文を審査に出す前に、このアーカイヴに登録しておくことで、査読前でもある程度は自分の業績をアピールすることが出来るようになりました。また研究競争における先取権の問題も、アーカイヴを利用することで対策が容易になりました。
アーカイヴ上には膨大な数の論文草稿が保存されており、当然ながら、誰でも読むことが出来ます。今回はその中でも、個人的に割とホットなプレプリントを紹介します。尚、これらの草稿には、正式な審査を通過していないものもあります。内容に関する判断には十分ご注意下さい。
Perelman's papers
数学の「ポアンカレ予想」を解決したG. Perelman氏の論文です。
https://arxiv.org/abs/math/0211159
https://arxiv.org/abs/math/0303109
https://arxiv.org/abs/math/0307245
これらの論文は有志の数学者の査読の結果、ポアンカレ予想の証明に成功していると認められました。この証明にはアメリカのクレイ数学研究所が100万ドルの賞金を懸けており、Perelman氏に授与される筈でしたが、ご本人が辞退しました。
LIGO関連
LIGO(ライゴまたはリゴ、Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)はアメリカ・ルイジアナ州に設置された重力波観測装置です。
[1411.4547] Advanced LIGO (arxiv.org)
このプレプリントは、後に査読を通過しています。こちらは正規の学術誌から出版されているため、購読にはお金を支払う必要があります。または、購読権(サブスクリプション)を保有する大学等の図書館から閲覧も可能です。
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/0264-9381/32/7/074001
Higgs粒子の崩壊過程
「神の粒子」と呼ばれるヒッグス粒子の観測に関連する論文です。質量の起源を説明するのに必要だそうですが、ぶっちゃけ私には難しすぎて、まだまだ勉強中です。こちらも正式版を読むためには、購読権が必要です。
正式版:Observation of H→bb¯ decays and VH production with the ATLAS detector - ScienceDirect
高圧化・高温超伝導
最近話題の、室温下での超伝導に関するプレプリントです。各ページの”DOI”という項目をクリックすれば、正式版に飛ぶことが出来ます。くどいようですが、正式版閲覧には購読権が必要です。
https://arxiv.org/abs/1902.07993
https://arxiv.org/abs/1905.01367
https://arxiv.org/abs/1907.11916
おまけ:論文雑誌の購読料問題
これまで紹介してきた論文はほぼすべて、どこかの論文雑誌から、査読を勝ち抜いて、出版されています。しかしこの論文雑誌、 購読にはかなり高額な費用がかかるものもあり、貧乏な国や大学では、正式版を閲覧できないことも結構あります。とくに発展途上国の研究者さん達にとっては、最新の論文が読めないことによる「学術界の格差拡大」が深刻な問題になっています。アーカイヴはこうした問題に対しても一つの解決策として機能しています。