友意白雑記帳

だいたい自分用の覚え書き

戦争体験世代の声だけをもてはやすリスク

実際に戦争を体験した人の言うことが、戦争を防ぐためにはもっとも重要だ。

わたしは長らくこう考えてきた。しかし今になって気づいたが、「再度の戦争を防ぐ」という目的のためには、この考え方は危険なのかも。何故なら、人間は往々にして「もっとも重要なこと」以外の全てを、無意味なものと錯覚してしまうから。つまりこうだ。
・A世代=実際に戦争をはじめて、体験した人たち。
・B世代=A世代から直接話を聞いた人たち。
・C世代=A世代から直接話を聞けなかった人たち。
・D世代=その後の世代。
この場合、A世代以外の人間には、戦争を防ぐに足るメッセージを発する資格は無い、という錯覚を引き起こす可能性がある。

さて、A世代が全員この世を去ったとしよう。その後、B世代が色々なやり方で、戦争を繰り返さないようにメッセージを発する。しかしCやD世代が、先述したような錯覚にとらわれていたら、

所詮、本当の戦争を知らない、平和ボケした青二才の戯言だ。今の大人たちは、実際に戦争体験したわけではない。戦争といったって、そこまで特別なものでもなかろう。事実、歴史上では掃いて捨てるほど起こってきた。

とみなされてしまう。そういう可能性を孕んでいる。その結果、A世代のメッセージはめでたく無視されて、戦争を忌避する心理も失われる。もちろん、これにはC世代やD世代(の大多数)が「もっとも重要なこと以外の全てを無意味なものと錯覚する」ほどの馬鹿である、という条件が付いている。しかしこの条件、個人的にはそれほど厳しい条件とも思えない。

更に意地悪なことを書き加えておく。上記のA世代とは、戦争の悲惨さを体験していると同時に、戦争という愚かな行為をはじめた張本人たちでもある。戦争の悪魔的魅力(戦場でのロマンチズム、勝利の栄光、歴史に名を遺すチャンス、戦勝国の権益など)に抗えなかった者たちである。そのような当事者の経験知を伝えること自体はすばらしいし、必要なことではある。ただしどこかで結び目を誤ると、後世の人間を、再び戦争に惹きつけるとになるかもしれない。

一方で、再び戦争を起こしたくないのなら、本当に耳を傾けるべきなのは、平和な時代に、戦争になりかけた危機を切り抜けて、平和を維持した人たちの声なのかもしれない。

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