友意白雑記帳

だいたい自分用の覚え書き

日本物理学会が完全オンライン化

来年3月の日本物理学会・年次大会ですが、完全オンラインでの開催が決定したようです(今更)。

第76回年次大会(2021年) | 学会活動 | 一般社団法人 日本物理学会

 

コレ、私のような海外在籍の研究者には結構ありがたい話です。コロナ以前のような現地開催だと、日本への航空券&宿泊費だけで軽く数十万円かかります。個人で負担するのは流石にきつい、、、。

更に問題なのが、日本語での研究発表は活動実績として評価されにくいこと。なので研究費を使って参加しようとしても、「もっと別の、国際会議(英語発表)とかに参加しろよ。」と文句付けられることもしょっちゅう。

あと、関係者でないと意外と知らないのが、この日本物理学会・年次大会は、いわゆる「査読」が無い点。国内・国外問わず、権威ある場での研究発表には、事前に概要(Abstract)を提出し、それが審査され、発表に相応しいかチェックされます。しかし物理学会の年次大会では、参加人数が多過ぎることもあり、この査読はありません。参加に必要なのは日本物理学会の会員であることだけ。査読の無い研究発表も、やはり評価されにくく、研究費のスポンサーからは渋い顔をされます(欧州だと特に)。

ちなみに私が学生の頃は、無査読なのをいいことに、かなりトンデモな研究発表(〇〇波動とか●●タキオンとか)もありました。現在はルールが変わったかもしれませんが。


そんなわけで、査読無し、言語は日本語、開催地は遠い、な学会にはなかなか足を運びにくかった訳です。オンライン開催であれば、最大のネックである遠隔地問題が消滅します。


さて、色々文句をつけてしまいましたが、日本の学会に参加することにも、意味はあります。なにより、日本全国の研究者が一堂に会するので、自分の視野を広げるのにはもってこいです。あと、日本の大学等でのポストを狙っている場合、偉い先生に自分を売り込む最大のチャンスでもあります。


ただし、オンライン開催になると、一つ新たな問題が。ズバリ「発表後の食事・飲み会が無い!!」

 

冗談ではなく、学会に足を運ぶ最大の理由が、研究発表以外の時間での、研究者仲間とのコミュニケーションです。雑談から新しい論文ネタが産まれるのが研究の世界です。そもそも、15分かそこらの口頭発表だけで、研究内容を分かってもらえることなんてあり得ません。なので真のメインイベントは、発表が終わった後の議論、口喧嘩、与太話になります。それが当たり前にできていた時代は、もう二度と来ないのかもしれないですが、、、。

 

まぁ、そんなこんなで、私もこれから参加申し込みをしようと思います。

 

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え、海外から日本に祝電を!?

高校時代の親友の一人がめでたく結婚されることになりました。本来なら直接会って、思い出話も交えてことほぎたいところなのですが、昨今のすったもんだもあり、残念ながら今回は見合わせる決断をしました。おのれコロナウイルス、、、。

で、せめて小粋な祝電をば打たん!となったとき、海外に居ながらでも、申し込めるサービスがいくつかあります。個人的にオススメなのが以下二つ。

 

NTT東日本 D-MAIL:

https://www.ntt-east.co.jp/dmail/

 

日本郵便 Webレタックス:

https://www.post.japanpost.jp/service/letax/

 

どちらも、結構直前でも申し込みができるのも魅力です。せっかくめでたいイベントなので、文面や贈呈品も出来る限り吟味したいときは、特にありがたいです。というか、こういうのを選んだり考えたりするのって、純粋に楽しい。旅先での土産物選びと同じですね。

こんなご時世ですが、明るいニュースを届けてくれた友人に、どうか幸多きことを。

クロアチア冬の風物詩「パネットーネ」

さて、クロアチアでも絶賛クリスマスシーズン中です。こちらのクリスマスの風物詩といえば、そうパンドーロ(Pandoro)!あるいはパネットーネ(Panettone)。

ようするに、クロアチア、というより、地中海周辺のヨーロッパの伝統的なクリスマスケーキになります。この時期のスーパーでは、山積みされたパネットーネが投げ売りされているのをよく見かけます。適当すぎじゃね?とも思いますが、実は必ずしもクリスマスに食べるわけでもなくて、普通にパンの代わりに毎日食べたりもします。なので扱いも結構ぞんざいです、、、。昔はもうちょっと丹精込めたケーキを各家庭で焼いてたそうですが、大量生産・大量消費が可能になった現代ならでは、ですね。

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パネットーネその1

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専用のおしゃれな容器も。

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パネットーネその2

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一個(800g)全部食べると訳3000kcal!!

一瞬買おうか悩んで、男やもめの一人暮らしでは到底食べきれないと即座に諦めました、、、。まぁ本来、クリスマスは家族で祝うものですからね。

 

ちなみにPandoroは(多分)クロアチア語、Panettoneはイタリア語。クロアチアはイタリアから見てアドリア海の対岸に位置する国で、歴史的経緯(主にはかつてのヴェネツィア共和国関連)により、場所によってはイタリア語が結構通じます。私が住んでいるZagrebは内陸なのでそうでもないのですが、綺麗な海が自慢のSplitとかだと、クロアチア語の次にイタリア語話者の方が多かったり。

宣伝・ノーベル物理学賞受賞者講演(2020年11月23日)

いきなりですが宣伝です。

2020年11月25日に、東北大学の主催で、YouTube Live上でノーベル物理学賞受賞者を招いて講演が行われます。
参加申し込み締め切り: 2020年11月23日

www.tfc.tohoku.ac.jp

講演者は以下のお二方になります。

  • 梶田隆章氏(東京大学宇宙線研究所所長・教授)
  • Rainer Weiss氏(マサチューセッツ工科大学・名誉教授 & ルイジアナ州立大学・特任教授)

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今回はかなりのビッグネーム2名の講演が聴けるチャンスです。またYouTube Liveでの配信ですので、インターネット接続さえあれば、誰でも、何処からでも視聴できます。つくづく良い時代になったもんです。昔だったら「お金払ってでも聞きたいのに、会場行けない(泣)!」って人達もいただろうに。

 

(以下、思い出話。)
現在の私の拠点はクロアチア・ザグレブですが、ここに来る前はイタリアのパドヴァという都市に居ました。そのとき幸運にも、梶田先生の講演を聞く機会がありました。パドヴァ大学が先生に何かしらの賞か栄典かを授与したときの記念講演です。

Interview with Takaaki Kajita - YouTube

そのときに聞いた、「私(梶田先生)の研究は小柴昌俊先生から始まった一大事業の一部である。」という話がとても印象的でした。

自身のノーベル賞もさることながら、ニュートリノ天文学という、「ノーベル賞量産装置」ともいえる研究のプラットフォームを作り上げたのが、小柴先生の真骨頂だったのだと思います。

 

小柴昌俊先生、あらためて、ご冥福をお祈りいたします。

クロアチアのクリスマス準備

11月も半ばを過ぎ、クロアチアは本格的なクリスマスシーズンに突入です。夕方に大聖堂前を通りかかったら、しれっとツリーが運ばれておりました。今は丸裸ですが、これから段々とおしゃれしていくのを見るのが、この時期の楽しみです。

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大聖堂前に突如出現するクリスマスツリー。

 

近所のスーパーでもクリスマス用品が売られ始めました。見ているだけでも結構楽しい。

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クロアチアは主にキリスト教・カトリックのお国なので、クリスマスはそりゃもう盛大かつ厳粛にお祝いします。日本と違い「お正月」を特別扱いする習慣が無いので、今から来年1月の終わりまで、街はクリスマス飾りで彩られることになります。今年はコロナのせいでどうなるか分かりませんが、本来この時期のクロアチアは観光に超オススメです。世界が平穏を取り戻した暁には、是非一度、お越しください。

小柴先生にまつわる(一方的な)思い出

日本の物理学者、小柴昌俊先生が亡くなったそうです。ご冥福をお祈り申し上げます。

 小柴先生は2002年に「天体物理学とくに宇宙ニュートリノの検出に対するパイオニア的貢献」により、ノーベル物理学賞を受賞されました。晩年は日本物理学会の巨匠の一人として、後進の育成とともに、基礎研究の重要さを訴え続けておられました。私を含む駆け出し研究者も、勇気づけられる者が多かったかと思います。

 実は、小柴先生がノーベル賞を受賞されるより前に、たまたまその講演を聞くチャンスがありました。当時、私はまだ研究者としてのキャリアを始める前で、自分の人生を何に使うか悩んでいた時期でした。そんなときに聞いた小柴先生のお話ですので、自分もけっこうな影響を受けました。今回はそんな記憶の中からの思い出話になります。尚、20年ほど前の事につき、色々と記憶違い等もあるはずです。あらかじめ、ご了承下さい。

 

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小柴先生の最大の業績が、「カミオカンデ」と呼ばれる実験装置(およびその後続の実験装置)の提唱、そしてそれを利用した「ニュートリノ」測定法の確立です。ニュートリノは素粒子の一種で、大変観測が難しいことで知られています。

 実はこのカミオカンデ、建設された当時の目的は、小柴先生の業績の中核である「宇宙から飛来するニュートリノの検出」とは若干異なっていました。初期の目標は「陽子崩壊」という、陽子という粒子が自発的に放射性崩壊する(と考えられていた)現象を観測することでした。しかしこの陽子崩壊、当時最先端の理論(SU5理論という名前がついています。)からは予言されていたのですが、結局現在に至るまで、実験的な観測には成功しておりません。くだけた言い方をするのなら、理論屋の口車に騙されて、数千億円の税金をあやうくドブに捨てさせられるところだったのです。一応「陽子崩壊は起こらない→理論を修正する必要がある!」という事実を突きつける成果を挙げることはできましたが、このままでは煮え切らない形でプロジェクトを閉じざるを得なかったのです。

 しかしここから「転んだ先に金塊が転がっていた」ような大逆転を、小柴先生達は起こします。カミオカンデのニュートリノ測定能力を宇宙線研究に転用したのです。ここで少し整理すると、実は先に書いた「陽子崩壊」の測定のためには、
 (1)陽子崩壊が起こり、色々あった後(省略御免!)、いくつかの高速な粒子が射出される。
 (2)高速な粒子がカミオカンデ内部の純水タンク内を運動する際、「チェレンコフ光」という特殊な光が発生。
 (3)このチェレンコフ光を、カミオカンデの検出器で捉える。
というステップを踏むことになります(実際には起こりませんでしたが)。ここで更にポイントとなるのが、カミオカンデが(ある意味偶然にも)以下の条件も満たしていたことです。
 (イ)チェレンコフ光自体は、陽子崩壊由来のものに限らず、荷電粒子が一定以上の高速で運動すれば、必ず出る。
 (ロ)しかしカミオカンデでは、陽子崩壊以外の邪魔を排除するため、分厚いシールドを施してあった。→このシールドを突破できるのは、宇宙から飛来するニュートリノのみ。
 (ハ)このニュートリノが電子と衝突し、高速になった電子がチェレンコフ光を出す。※ニュートリノ自体は無電荷なので、チェレンコフ光を発生させることは出来ない。

したがって、仮にカミオカンデで何らかのチェレンコフ光が観測された場合、それはほぼ間違いなく、宇宙からお越しくださったニュートリノ様が原因、という結論になるわけです。こうして、一旦は見捨てられかけたカミオカンデは、世界有数の「高性能ニュートリノ検出装置」として、第二の生涯を歩むことになりました。その後、超新星爆発からのニュートリノの検出に見事成功したことで、小柴先生とカミオカンデの評価は揺るぎないものとなりました。

 

私がお話を聞いときには、小柴先生自身は、この大逆転な展開も、ある程度予想されていたようです。なんだかんだ言っても、ニュートリノという、極めて観測が難しい素粒子を捉えることが出来るという強みは、シンプルであるがゆえに、色々な応用ができるはず、と当時から考えられていたそうです。しかしそれでも、当初狙っていた陽子崩壊が検出できなくとも、研究を継続した意志は相当なものでしょう。小柴先生の研究者としての「しぶとさ&したたかさ」は、私も見習うべきだと思います。

 ちなみに、超新星爆発に伴うニュートリノ検出の成功に関しては、ここでも負けず劣らずなドラマがあったりします。それについてはまたの機会に。

 

ja.wikipedia.org

クロアチアでの日常「口喧嘩」

やっぱりクロアチアでも「マスクがコロナ予防に有効だと確定したわけではない」云々という理由で、マスク着用に消極的な方々がいます。今でも。こちらの流儀では、こんな感じの流れになったら(巻き込まれたら)、居合わせた全員が、その問題について自分なりの了見を述べるのが礼儀なので、俺も何か言います(このあたり、議論は呼吸と食事の次に大事、な文化が見えます)。
 
さて、だいたい俺が伝えるのが「敵はコロナだけではないぞ。」てことです。
コロナウイルスに有効か否かは結構どうでもよくて、ちょっとした風邪とかでも、かからない努力をすることが、現在はかなりの意味を持ちます。風邪以外の他の病気もそうです。共同体の医療リソースを圧迫するのは少しでも避けるのが得策です。ですので、
「そういう意味もあるから、マスクと手洗いとうがいはした方が良い。というかして。」「お前が健康でいてくれるおかげで、助かる人が一人増える(かもしれない)から。」が俺の意見になるわけです。
 
で、ここからが問題なのですが、「これをどう伝えたら納得してもらえるか?」という点にいつも悩みます。ほぼありえない事ですが、仮にこちらの意見が完全に、事実として正しかったとしても、それ自体で納得を取り付けるのはほぼ不可能です。どちらの意見が正しいかの判定基準(物理学における実験結果)が存在しない、あるいは存在したとしても、俺と相手が共有できていない場合、明確なWin-Loseの形での決着は不可能です。有り得るのはお互いに認め合えて握手して別れるWin-Winか、「消えろ!」「この石頭が!」と言い合って別れるLose-Loseかの2通りです。後者の場合は拳での交渉に移行することもあるかもしれません。物理学会なんかの議論と違って、この種の口喧嘩では、客観的正しさが粉チーズ以下の価値しか発揮できない場合もしょっちゅうです。「お前の言いたいことは分かったが、気に入らないから却下だ。」となってしまっては失敗なわけです。
 
まあだいたいの場合、俺が「コロナのことは放っておいて、マスクは他の雑菌を防ぐ効果があるらしいから、余裕があるならオススメだよ。うがいもそうだよ。」「今の状況では、病院なんて行かないで済む方が絶対に良いんだから、俺は気を付けているよ。」と言えば、みんな納得したふりをしてくれます。心の底での真意は知ったことではありませんが、少しずつ分かってもらえれば良いなと思ってます。(でもたまに、英語やクロアチア語話したくない日は適当に切り上げてる、、、。)
 
尚、本当にマスクがウイルスに無効か否かは、個人的な判断は保留しております。あしからず。